グリーフ:心の反応
心に影響を与えるグリーフ
グリーフの最も大きな影響はその感情や認知に与える影響です。感情、認知、行動的な側面を分けて検証することも可能ですが、ここではあえて肉体的影響以外をすべて一緒に扱う事にしています。
全ての感情を受け入れる必要がある
ここにあげた反応は、大切な人を失った場合に通常に見られる反応です。
このような感情をはじめて経験すると、自分が精神的におかしくなってしまったのではないか、と心配する人もいますが、全く正常な反応ですので心配することはありません。
喪失への適応で重要な項目の一つは、自分の感情を受け入れる事にあります。時には否定的な感情(恨み、嫉妬)が胸に湧き上がってくる事があるかもしれませんが、「自分がそう感じていること」を受け止めることが必要です。さらに、感情の波が襲ってきたときに、自分の感情がコントロールできない、泣くのは弱いなど、自分を責める必要は無いことを理解しましょう。
たとえば、シカはオオカミを見たら走る。これを、逃げたのではなく、脅威と闘い、正しく対処している姿だと肯定することだ。息継ぎのために立ち止まることも、正しい対処法だ。
(モシェ・ファルヒ :イスラエルのトラウマ治療専門家)
代表的な精神的、認知的、行動的、スピリチュアルな反応
ここでは、互いに関連し合っていることから精神的、認知的、行動的反応とその意味合いを解説していきます。
- ショック・麻痺・否認
- 大切な人の死は、それがあらかじめある程度想定されていたものでも、突然起こったものであれ、私たちはショックを受け、「信じられない」気持ちになります。この喪失という大きなトラウマに対して、人間の心と体は、短い時間、「何も感じない」事で自分自身を守ろうとし、こういった状態を一種の緩衝材として使っていると考えれらます。
- 緊張・落ち着きのなさ
- 緊張して、警戒心が強く、少しの物音にもびくっとしてしまう。気持ちが落ち着かずに、居ても立っても居られない状態です。
- 探索・ちらつき
- 故人を、つい探してしまう。そして、存在を感じたり、人込みで見たような気がする。香りやにおいを感じる事もあります。
- 繰り返す死のイメージ
- 故人の事ばかり思っていておかしくなりそう。いろいろなイメージ、特に死の周辺のイメージが頭に浮かんだり、死にまつわる詳細なディテールが気になってしょうがない。物事が起こった順序や、その様子にこだわり、何度もその話をする。
- 過活動
- 悲しみに暮れる間がないほど必要以上の活動を計画し、行おうとします。それが実行できないので逆に自尊心が低下することがほとんどですが、計画を達成できても満足感はなく、さらなる活動を計画します。
- 思慕・さびしい
- 故人との再会は無理だと分かりつつも、亡くなった人を追い求め、何とかして再会したいという気持ちが強く表れます。思い出すと苦しいのですが、それでも「思い出したい」気持ちが強くあります。
- 不公平感、妬み
- 自分で「いやだな」と思いながらも、幸せそうなカップルや、子連れの母を見ると不公平感や、妬みが抑えられない。故人の不在が羨望の引き金に。
- 恐れ、不安
- 起こるべきでない死が起こったわけですから、今までの安全、余命、正義への信頼が揺らぎ、不安や恐れを感じます。また、今後の生活について、遺された者だけでやっていかなければいけない、という不安もあります。
- 悲しみ
- 悲しみは、誰にでも見られる感情ですが、人によってその表現は異なります。涙を流し続ける人、じっと表に出さないなど、人さまざまです。
- 罪責感・自責感
- 「セカンドオピニオンを取るべきだった」とか、「あのとき電話をしていれば助かったのに」とか、自分がしたこと、しなかった事が死の原因だったと考えたり、生前の故人との関係を「もっと優しくしてあげるべきだった」と後悔したりします。ほとんどの場合、現実には難しかった事が多いのですが、自分を責めずにはいられず、周囲の慰めは、なかなか受け入れがたいことがあります。
- 怒り
- 死に対する怒りは、様々な方向に向けられます。加害者がいるときはもちろん、医療機関に不手際があったのではないか、自分や家族に止めることが出来たのではないかという怒りを感じることがあります。また、故人に「なぜ自分を見捨てて死んでしまったのか」と恨みに感じ、その感情に遺された者自身も困惑する事もあります。
- フラッシュバック
- 一般に死の瞬間を目撃した、死の様子が凄惨であった、遺体の発見者になった、病院での死でも、大出血をしたなど、ショッキングな光景を目の当たりにした経験が心のに焼き付いて、思い出したくないのに鮮やかに思い出されるという、つらい反応です。
- 抑うつ、無気力、疲労感
- 亡くなった人を助けられなかった、強い精神的ストレスから家事や仕事が出来なくなる、「なぜ自分にこのようなことが起こったのか」という不毛な自問自答に疲れた、大切な人のいない生活に意義を見いだせない、などと言う理由で意欲や活力は低下し、無気力になり、虚無感を感じます。体に力が入らずいつも疲れていて、出かけたり、人と会ったりするのが億劫で抑うつ的な傾向を示す事があります。
- 孤独感・疎外感
- 死をきっかけに、周りの人々の態度が変わったように感じられることがあります。大切な人を失った時、人は「こんな風に感じているのは自分だけだ」「この気持ちはだれにも分かってもらえない」と思い込みます。そして、自分だけが社会の中で置いてきぼりにされたような気がする、自分が好奇の目でみられている、と感じることがあります。この疎外感は本人の認知的な問題(とらえるほうの問題)である事もありますが、実際に「死に関わる者」として言われない、無言の疎外がされていることもあります。
参考リンク:スティグマ - 孤独感
- 他の家族や友人がいても“一人ぼっちだ”という感情が表れ、特に配偶者をなくした遺族には強く表れます
- 安堵感、解放感
- 長期の看病の末の看取り、アンビバレントな関係の相手の死(アル中で迷惑を掛けられた母、DVの夫)、抑圧的な親などのケースでは、その死によって積年の問題が解決され、ほっとする。その反面ほっとする自分に自責感を感じる事が多い。
反応とその時期について
ノーマルなグリーフの姿で紹介したニーメヤーの3つの局面に沿って、上記の反応を位置付けていきます。
改めて申し上げますが、フェーズは概念として境界線があいまい(ほかのフェーズと重なり合う、行ったり来たりする、同時に起こる)がありますので、心の変調も一概に「どのフェーズはこれ」と区切ることは出来ません。
フェーズの内容 | 心の変調 | |
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回避の フェーズ |
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同化(直面)の フェーズ |
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適応の フェーズ |
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