喪失を経験した人を支える
お願い
大切な方を亡くした人をサポートしてあげたい、力づけてあげたい。自然な気持ちと思います。
周りの人は心から遺族の事を考えてはいても、残念ながらせっかくの「サポートしたい」気持ちから出た言葉や態度がかえってグリーフ中の人を傷つけてしまうことがあります。ここでは「気を付けたい言動」「望まれる言動」をあげ、一般的に望まれるサポートの仕方や考え方を紹介します。
先ず知ってほしい事
基本的なことを知ってほしい
- 人は死別の悲しみから回復したり、乗り越えたりするのではなく、以前、一般に考えられてきたよりよっぽど長く(数年)、苦労しながら、何とかその喪失と付き合いながら生きていくすべを学んでいきます。
- 死別への適応に必要な時間は人それぞれで、どのくらいが普通かを語るのは意味のない事です。
- 悲しみ方は人それぞれです。泣かない事が悲しんでいない事でも、愛していなかった事でもありません。
- グリーフの反応はただ悲しくて涙が出るだけではありません。怒り、自責感、無力感、不公平感など、様々な感情を遺された者は感じているのが普通です。
- 亡くなった人と「対話が出来たり」「絆が切れていない」と感じる事、大きな感情の波にさらわれて号泣してしまうのは決して「気が狂ってしまった」のではありません
- 死別のグリーフへの適応で一番大切なのは故人の事、死にまつわる状況、死別後の自分の事を「語る」事にあると専門家は同意しています。
参考リンク:実践的グリーフとの付き合い方、グリーフについてのおさらい
こんなこともある事を知ってほしい
- 思いのほか「元気そうに」見える事があります。
- 張り切って頑張っているが、実は家に帰るとガックリきている人もいます。
- 大丈夫と言い張ったり、大丈夫と言わないとお見舞いに来てくれた人に申し訳ない、と思っている事もあります。
- 疲れやすく、思考や行動能力が低下しているので、物事の決断が出来ず、ぼんやり、怠けた感じに見える事があります。
- つじつまの合わない話、前回と違った話をすることがあるりますが、普通の事なので、いちいち細かいことを指摘しない
こういった言葉をかけないで
愛する人を亡くして悲しむ人に声をかけるのは難しいものです。非常に繊細な時期を経験している遺族にとって、あなたが遺族を力づけようと思って掛ける一言が、かえって傷付ける一言になることがあります。
言葉をかける場合には、自分の気持ちを正直に表現することが重要ですが、これを参考に、表現には気を付けてあげてください。「どう言って良いのかわからないので決まり文句を言う」のであれば、黙って寄り添ったり、何も言わずに頭を下げるほうがまだ良いとも言えます。
励ましや激励
- 頑張って
- もう少しの辛抱
- 早く元気になって
- 奥さんを力づけてやれ!(子供を亡くした父親に。本人も悲しんでいます)
悲しみ比べ
- あなたはまだよい方
- もっとつらい人がいる
- お子さんが大きいから(小さいから)まだまし
- 私の知っている人は…
- もういいお年だったから大往生ですね
自身やほかの人の体験談
- ~~さんは~~を始めてからすっかり元気になった
- ~~をすれば癒されるはずだ
気休めの同意
- お気持ちはよくわかります
- 時間がたてばよくなる
- なんと申し上げてよいやら
回復の早さをほめる
- あなた強いわね
- 元気そうで安心した
- 立ち直りが早いんですね
性急に前進することを勧める
- まだ若いんだから
- 次の子供を作ればいいじゃないか
- 忘れるのが一番だ
死後時間がたっているがなかなか立ち直れない事を指摘する
- もう一年たったんだから元気出さなきゃ
- もう少し前向きに考えなきゃ
- いつまでもクヨクヨそんなこと考えていると故人が悲しむ
実生活での大きな決断を迫る
- 夫を若く亡くした女性に再婚の可能性をほのめかす
- 納骨や遺品の整理をせかす
自分の気持ちを優先する
- 私まで辛くなるから泣かないで
- そんなに取り乱さないで
遺族が自分で見つけ出すべき死の意味を自分勝手に押し付ける
- 神様が決めた事
- そのうち会える
- 成仏した
- 新しい赤ちゃんは亡くなった赤ちゃんの生まれ変わり
自分の考える喪の行事や方法を押し付ける
- 法要はこうしなければいけない
- ~~家の作法は…
- 分家の場合…
こういったサポートが望まれています
支援の申し出は具体的に
喪失ごの遺族は判断能力が低下していることもあり、何をサポートしてほしいかを考えることも負担になります。あいまいな「 出来ることがあれば何でも言ってくださいね」といった申し出ではなく「 食事を作って持って行ってもいい?」といった具体的な提案をしましょう。経験者がして欲しかった事としてあげているのにはこんなことがあります。
- 食事のしたく
- 買い物
- 葬儀の後片づけ
- 電話に出ること
- ペットや植物の世話をすること
- 子どもや夫の面倒を見ること
- 病院へー緒に行くこと
- 煩雑な、葬儀以後の手続きの代行
大きな決断は本人に任せる
最終的に難しい決断は当人自身がする必要があり、また当人自身しかできません。善意でも決断するのが難しいことを「代わりに」してあげることは出来ません。
声をかけるなら
- 事前に対話の糸口を用意する。
- なんといって良いか解らなかったら「あなたの事が気にかかっていました。いかがですか」と言ってみる。
- 「おつらいでしょうね」と押し付けずに聞く
- ゆっくり話が出来る環境なら「~~さんの事をお話になりたいですか(聞かせてもらってもいいですか)」と聞く
- つじつまの合わない話、前回と違った話をすることがあるが、気にせず聞き流す
- ぼんやりして、注意力が散漫になっている事がある。思わぬ事故にあわぬよう声をかける。
- 自分も死別経験者なら、控えめに自分も同じ経験をしたことを話す。自分の適応の方法などを押し付けない
「何事もなかった」ふりをしない
大切な人を亡くした事を知った、知っている場合、それを知らないふりをしないでください。往々にして周りの人間は、死の事を話題にしたら傷つくのではないか、かえって悪いのではないかと考え、「何事もなかったように」振る舞うことがあります。遺された者にとって、周りの人が死について触れないように、何ごともなかったかのように接する事は、孤独感を増す要因となります。
正しい「何事もなかったように振る舞う」方法もあります。あなたの友人が「もし大切な人を亡くしていなかったら誘っていたはず」のイベントや行事があるのなら、ぜひ誘ってあげて下さい。遺族は死を境に変化する人間関係に戸惑っています。遺族は、なんだか「自分が特別な人間になってしまったよう」な疎外感を感じていることもありますし(詳しくはスティグマ)、あなたとの関係が「以前のまま」である事を教えてあげるのは大切です。もちろん断られるかも知れませんが、遺族にとっては「誘ってくれた」ことが非常に大きな意味を持つのです。何度も誘われるうちに「行ってみようか」という気になるかもしれません。引きこもりがちのこの時期に計画を立てる、準備をする、表に出ることは非常に重要な決断で、喪失の適応にも良い影響を与えます。
それでも遺された人は傷つくこともある
グリーフの形は本当に人それぞれで、ある意味「腫物を触るような」時期であるということが出来ます。ここに記載されているサポートの仕方を実行しても、遺族から予想もしない反応(八つ当たり、拒絶、怒り)を受けることもあるかもしれません。そういう時は、「神経が過敏になって、本人も気が付かないうちに否定的な反応を取ってしまう事があるのだ」と冷静に理解し、ある種「理不尽な」反応を受ける事もある程度予測して、大きな気持ちで支えてあげてほしいと思います。
専門家の助けがいるかどうかの判断
遺された人が喪失からの回復に行き詰っているなど、専門家の助けがいるかどうかを周りの人間が決めるのは難しく、危険なことです。しかし、身体的な健康を損なっている、日常生活に支障をきたしているなど、外部から見て明らかに問題を抱えて居る、という事もあります。どんな時に助けを求めるべきかに、専門家に助けを求めるかどうかのガイドラインを記しています。見せてあげて、検討する事を進めてはどうでしょうか。