複雑化したグリーフ

複雑化したグリーフ

喪失を経験した人の中で、ある程度の時間がたっても、何らかの理由でグリーフが進捗、展開せず、ノーマルなグリーフの姿から外れてしまうことがあります。激しいグリーフの気持ちが何カ月も、あるいは、何年も持続することもあります。不快なイメージがよみがえり、嫌な考えが割り込んできて、いやされる過程を阻害し、死は容認できることではなく、かつ、不公平である というような感覚が起きることもあります。死別体験への対処が非常に難しい一部の人にとっては、グリーフが残された関係のすべてであるかのように 感じられ、グリーフの強さが弱まってくることが、亡くなった人への裏切りのように感じたり、強い 罪悪感が継続する人もいます。逆に何も感じられないまま、何か月もが過ぎる人もいるかもしれません。グリーフを経験した人の中で10-20%程度の人に「複雑化したグリーフ」が認められると言い、一種の病的なグリーフで、専門家による援助が望まれます。

複雑化したグリーフの表れ

二つの「複雑化したグリーフ」の提議を紹介します。

テレーズ・ランドーによる複雑なグリーフの臨床的症状

テレーズ・ランドーはその著書、「Treatment of Complicated Mourning」:1993) の中で複雑なグリーフの臨床的症状について以下のように述べています。

  • 喪失と別れに対する虚弱性や過敏な反応
  • 精神的、行動の上での落ち着きがなく、過敏で、過剰な活動を行う。いつでも何かをしていないと心の底にしまった不安な記憶を呼び覚ましてしまうかのように何かをし続ける。
  • 自己や愛する人の死への恐怖
  • 過剰で頑固に故人を理想化する。非現実的に理想的な故人との関係の記憶。
  • 頑固で強迫的、時に儀式的なまでに自分の自由や幸せを束縛するような行動
  • 頑固で取りつかれたように故人と死の様子のこだわる
  • 通常遺族にみられるような感情的な感情を経験しないか、非常に限定されている
  • 故人と喪失について抱いてるはずの感情を一切表現できない
  • 他者とは親密な関係を持つ事への恐れなど、又喪失することを避けるための行動
  • 他人の世話を強迫的なまでにしたり、代わりの関係をさがすなど、自己破滅的関係を死をきっかけに始めたり、加速させる
  • 死後、自己破滅的、自虐的、あるいは人目を引くような大げさな活動を始めたり、加速させる。これには薬物乱用も含まれる。
  • 慢性的な無感覚、孤立感、離人症、その他の「自分とも他者とも引き離されているような」感覚
  • 慢性的に怒りとそのバリエーション(例:苛立ち)や怒りと鬱のまじりあった感じ(イライラ、好戦性、短気)

DSMでの定義

DSMはアメリカ精神医学会が定めた「精神障害の診断と統計の手引き」。現在の最新、第4版改訂版も複雑なグリーフが参考として含まれています。(将来的に正式な診断基準とするかについては解らない。これが慢性的グリーフを「精神病」と定義することになるため、強い反対者が多い。)

A:次の4項目のうち少なくとも3項目の感情を毎日かかなりの割合で感じる

  • 侵入的な故人への思い(考えたくなくても考えてしまう)
  • 個人への思慕
  • 探索行動
  • 過剰な孤独感

B:その人が以下の8項目のうち少なくとも4項目の感情を毎日かかなりの割合で感じる

  • 将来に関して目的や意味が感じられない
  • 無感覚、無関心、感情反応のなさ
  • 死を受け入れることが難しい
  • 人生はからっぽで無意味だ、という感情
  • 自分の一部が死んだと感じる
  • 世界が安心できないという感覚(安全、信頼、コントロールがないという感覚)
  • 故人がかかっていた病気にかかったり、故人がしていたのよくない行動を自分自身が始める
  • 過剰な死に関してのイライラ、敵意、怒り

C:異常の症状による変調が少なくとも6か月続く

D:異常の症状による変調が、社会的、職業上、その他重要な領域で、機能障害を引き起こす

関連リンク:助けを求める

グリーフを複雑化させる要因

グリーフを複雑化させる要因は様々です。故人と遺された者の関係は、特に親しかった、逆に大変複雑なものであることもあります。亡くなった状況が、突然のもの、あるいは、心的外傷(トラウマ)を伴うようなものであったかもしれません。また、遺された者が、悲嘆(グリーフ)の過程に役立つ対処技能やレジリアンスを持たない、あるいは、社会的なサポートが得られないかもしれません。特定の要因に関してはグリーフに影響を与える要因ハイリスク要因を参照してください。

複雑化のタイプ

様々な複雑方のタイプがあります。その代表的なものを紹介します。

グリーフの欠如、遅延、抑圧

表面上グリーフ反応が見られないケース。

  • 衝撃が大きすぎて完全なショック状態に居たり、死が起こったことを否認しているような欠如状態や、ケース。( ただし、喪失直後は誰もがショック状態でグリーフ反応は表面化しないことが普通。)
  • 常時面倒を見なければいけない子供がいる、大きな交通事故で本人も大きなけがを負ったなどの場合で、体の回復が第一優先の場合、あまりに衝撃的な死のありさまで「とりあえず」感じることを拒否している、などのケース。
  • 感情に圧倒されることを恐れたり、徹底した感情のコントロールをするよう訓練をされいるケース。故人が理想化されていることが多い。
  • いずれも表面化しないグリーフ反応はほかの部分、例えば肉体の不調などとなって現れる

葛藤のあるグリーフ

故人との関係に深刻な問題、特に愛憎的な葛藤があり、このアンビバレントな関係が遺された人のグリーフにも影を落とす。アダルトチルドレン、虐待、アタッチメント不全等の問題を原因とすることが多い。問題が多い関係が終わり、安堵する反面、強い後悔や自責感が現れる。また、関係が依存的な場合は「見捨てられた」という怒りが突出してくる場合もある。

慢性的グリーフ

死後、一定期間が経過してもグリーフが始めの強い感情(探索、思慕、怒り、自責など)が続いており、日常生活に影響があるほど適応が進まない。グリーフワークがうまくいかず途中で止まってしまっている。うつ状態である、グリーフする事で故人との繋がりが強く保てると思っている(忠誠心を表現できる)、グリーフから抜け出さない事で注目を集めたいという潜在意識がある、などの理由が挙げられる。

過大なグリーフ

過大を定義するのは難しい問題だが、通常のグリーフにみられる反応が過剰で、過度な不安、悪夢、恐怖感をもち、その感情は強固で圧倒的なため生活適応に障害が現れる。